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紫色の月光

紫色の月光

第七話「受け取ってしまった挑戦状 前編」

第七話「受け取ってしまった挑戦状  前編」   



 刑務所の戦いから一週間が経過していた。
 オーストラリアの街は全く持って平和そのものであり、珍しい事に事件の一つも無い。
 しかし、たった今、とある銀行で事件が発生した。
 
「貴様等、手を上げろ! おかしな真似はするんじゃないぞ!」

 二人組みの銀行強盗が押し寄せてきたのである。
 その二人組みはこの街ではあまりにも知られすぎている二人だった。

「か、怪盗シェルとイオ!? 何で銀行に……」

 銀行の中の人たちは驚いていた。今まで宝石しか盗まない事で有名だったあの二人組みが、事もあろうか昼間から堂々と銀行に襲撃してきたのだ。

「分かっちゃいないな。盗むモンは何だろうが必ず頂戴する。それが俺達、だぜ」

 青の仮面をつけた男、怪盗イオことマーティオはさも当たり前のように言う。
 彼は銃を持って従業員の女性を脅していた。

「オラオラ、早いところ札束をどっさりとバッグに詰めろ!」

「は、はい!」

 その様子を見ていたもう一人の強盗、怪盗シェルことエリックは珍獣でも見ているかのような気分だった。

(あいつ………かなり性格が変化しているような)

 彼の知っている限り、普段のマーティオなら、オラオラ、とは言わないはずである。
 それなのに、こうも堂々と言うとは。

(まさかあいつ………)

 エリックはマーティオに近づくと、呟くような小さな声で言った。

「おい、別にキャラを作んなくてもいいんだぞ」

「いや、こういうのはやっぱり暴力的発言が大事なのだと俺は思う。それに、何だかんだ言ってこんな形で強盗するのは初めてだからな」

 初めてとかそういうのは関係ないのでは、とエリックは思ったのだが、ここは敢えて突っ込まない事にした。
 何故ならこの男の場合、突っ込んだ後が恐いからだ。

「まあ、確かにな。俺達はひっそりと侵入して、追いかけっこしながら逃げる、な感じで毎回通してたからな」

「それが今回、銀行強盗をする事になろうとは……俺達はなんでこう金がなくなるんだろうな」

「理由は簡単だ。お前が無意味に変な物を手に入れたり、ニックが無意味に大人の本を大量購入しているからだ」

「付け足すべき点がある。お前の無駄なギャルゲーも、だ」

「あれは生活必需品だ。あれ無しでは俺は生きていけない」

「なら死んでろ」

 マーティオの発言はグサリとエリックのハートに突き刺さった。
 エリックは仮面越しでマーティオを睨みつけながら、

「ふんだ! どーせあれの素晴らしさを分からない奴が言う台詞だもん! 未プレイのクセに偉そうに!!」

 エリックはショックで精神年齢が一気に幼くなったようである。

「お前がクリアしてやらなくなった作品をいくつかプレイしてみた」

「……………………………………マジですか?」

 エリックは精神年齢が元に戻ったと同時、額に汗を流しながら尋ねた。

「マジだ」

 マーティオは見事なまでに即答した。彼の言葉には迷いが無い。

「因みに、今現在プレイ中なのは『爆裂☆宇宙探検隊』と『燃えろ三年C組フェニックス先生』に『ゼットン ー最終決戦ー』だ」

「最後のはオススメだぞ」

「ああ、俺もプレイしてみて妙に楽しく思えた。―――――しかし、前者の二つはあまり面白くないな。それゆえ、今のところ全体的に見たらあまり感心無しの方向だ」

 何時の間にか二人の討論会が始まってしまった。
 しかも、二人が武器を持っているためか、止めにかかるものは誰もいない。止めた後の八つ当たり的な一撃が恐ろしいのだろう。

「と言うか、何だあのゲームは。未だに前半しかプレイしていないが、正義の味方を名乗る変な巨人を倒すと言うのは妙に心地よかったな」

「ああ、制限時間1分以内に倒せって奴だろ? しかも途中で六人兄弟とかも出てきてかなり大変なんだけどそれをクリアしたらまた達成感があるんだよ」

「と言うか、激しく疑問なんだが、あれは本当にギャルゲーなのか? 何か毎回宇宙人と怪獣くらいしか出てこないのだが…………」

「ああ、後半からはストーリーが一変して『ゼットン教信者』を集める事がメインになるんだ。その後、ある程度の数が揃ったら信者達が変な呪文を唱えて主人公の宇宙恐竜が人間になっちゃうって言うトンでもストーリーな訳だ」

「前半のバトルは一体何なのだ?」

「さあ? 俺もそこんところが妙に気になってな」

 最早二人は自分達がここにやって来た目的を忘れてトークに没頭していた。
 はっきり言って、よそでやって欲しい。
 しかしそれを堂々と二人に言い聞かせる勇者はいなかった。やっぱり八つ当たり的な一撃が恐ろしいのだ。

 しかし話し掛けた勇者はいた。

「あ、あのー…………お金をバッグに入れ終えたんですけど」

 女性従業員のその言葉に討論会を中断した二人は振り向いた。
 その瞬間、女性従業員は思わず「ひっ」と声を上げてしまったのだが、

「む、そうか。ならばこんなところには用は無い」

 そういうと、マーティオは金が詰まったバッグを持ってエリックと共に逃げ――――

『聞こえるか、怪盗二人組! 貴様等は完全に包囲されている! 大人しく武装解除して逮捕されろ』

 ―――――られそうになかった。

「今の声は………ネルソン警部か!」

 エリックは溜息をつく。

「ここで一番厄介な人が出てくるとは………!」

「厄介どころかこの世から消えて欲しいほどのしつこさだぞ、あれは」

 マーティオの言葉にエリックは付け足した。
 そして、マーティオは静かに頷く。

「そこいらは納得だが………俺はあのサイボーグ刑事が苦手だな」

「ああ、確かロボコップみたいな奴だろ?」

 サイボーグ刑事は前回の戦いでマーティオに敗北している。しかし彼に確実な止めを刺してはいないのだ。故に、何時また出てきてもおかしくはない。

「ああ、四天王と言うからにはあんなのが後3人もいるんだと思ったら頭が痛い」

「そいつは何となく納得だな」
 
 二人の脳内にはサイボーグ刑事と同じ感じのロボット四人が浮かび上がっていた。色んな意味で凄まじい光景である。
 
「何か勝てる自信が無いな、機械相手だと」

「それはそうだが、どうする? かなり話の路線がずれたが、逃げられそうか?」

 本来なら最初にやるべき話をマーティオがし始める。なんだかんだ言ってこの二人も常人と比べて少々常識がずれているのだ。

「そうだな、ここは―――――強行手段と行きますか」






 銀行の外にはネルソン警部を始めとした警官隊がぐるりと銀行を囲んでいた。
 突入してすぐにでも犯人を捕まえたいところなのだが、中にはまだ人質の従業員も残っている。その為、何とかして人質を助け出さなければならないのだが、

「突入カウントダウンは後何秒くらいがいいと思うか、ジョン」

「いや、警部! もう突入しちゃうんですか!?」

「ジョン。俺は我慢の限界って物がある。何時までも獲物を前にして黙っていられるタイプではないのだ」

 その言葉に何となく納得してしまうジョンだが、そこで納得してはいけないだろうと自分に言い聞かせた。何故なら向こうは武器を持っており、尚且つ人質がいるからだ。

「警部! 向こうには人質が………」

 ジョンが言いかけた瞬間、ネルソンの言葉がそれを中断させた。

「お、ジョン。犯人達が出てきたぞ」





 エリックは片手に金が入ったバッグを持っており、マーティオは従業員の女性を連れて、彼女の頭部に銃を突きつけながらエリックの前に出てきた。彼女は人質である。

 彼等の目の前には警官の山が出来上がっており、その中で一番目立っているのはやはりネルソン警部だった。
 
 何故目立っているのかと言うと、一人だけ大騒ぎしているからである。

「うおおおおおおおお!!! 逮捕だぁぁぁぁっ!!」

 すぐにでも人質の存在を無視して二人に飛び掛らんとするネルソンを必死に止めているジョンと他の警官。はっきり言ってこんなんで大丈夫なのか、と一般市民を不安にさせている。

「本格的に某大怪盗三世を追い掛け回す警官みたいだな」

「つーか最早まんまとしか言いようが無いぞ」

 二人は目の前に壁のように集まっている警官を前にして何故か緊張感が無かった。自然と何時もの会話を交わしている。

「さて、では無理矢理道を作りましょう。頼むぜ」

「任せておけ。―――――おい、警官」

 マーティオことイオが人質の頭部に銃口を突きつけたまま叫んだ。女性は今にも泣き出しそうな顔をしている。

 しかし次の瞬間、マーティオは女性を突き飛ばした。

 女性は何がどうなっているのか分からないが、そのまま警官の壁に入り込み、無事保護された。

 しかしその出来事から数秒もしないうちにその壁に何かが放り込まれた。

 その何かを先ほどまで人質になっていた女性は見事にキャッチする。しかしそれはかなり危険な行為だった。

「しゅ、手榴弾!?」

 思わずそれを放り投げてしまう女性だったが、何故か次に来るはずの爆発音が来ない。

「…………?」

 思わず伏せていた警官達と女性は恐る恐る先ほど投げ捨てた手榴弾を見てみる。
 すると彼等は一つの事実にようやく気付いた。

 手榴弾の安全ピンは外れていなかったのだ。

「愚かな! 怪盗二人組み!! 手榴弾のピンを外し忘れるとは!! 全員、マッハの速度で逮捕しろ!!」

 ネルソンの号令で伏せていた警官が起き上がって二人を睨みつける。起き上がった後に彼等がやる事と言えば相手の武装を無力化することだ。

 しかしその行動を起こそうとした瞬間、またしても手榴弾が投じられた。しかも安全ピンはちゃんと外れている。

「エリック、先に行け。俺はもう少ししてから行く」

 マーティオが喋ったのと同時、手榴弾の爆発音が響いた。

 それと同時、エリックは走り出した。合流予定位置はニックの部屋である。

 しかし一発で終わるほどマーティオは優しくなかった。続けざまにもう一個安全ピンを外した手榴弾を投げつける。

「一度くらいミサイルとか発射してみたい物だな!」

 マーティオは危険な発言をしてから次から次へと手榴弾を投げつける。
 はっきり言ってただ破壊を楽しんでいるようにしか見えない。
 先に行ったエリックもこの光景を見たらそう思っている事だろう。





 数時間もしない内にマーティオはニックの部屋に帰還してきた。

 ニックの部屋があるビルまでの帰還ルートはかなり複雑だった。
 先ず、手榴弾を使い終えるとどさくさに紛れてマンホールの中に入る。
 そこからしばらく歩き、工事現場近くの位置にたどり着くと今度は作業員の服装に着替えて外に出る。普通の作業員の格好なので、これで滅多な事が無い限り正体がばれる事は無い。

「む?」

 そこから真っ直ぐニックの部屋に辿り着いたマーティオはある事に気付く。

 先にここに向かわせたはずのエリックがいないのだ。しかも今彼は金入りのバックを持っている状態である。

「おい、ニック。エリックはどうした?」

「まだ帰ってきていないが………お前さんが下水道の中で先を追い越したんじゃないんか?」

「それは無い。用意しておいた作業服は俺とエリックの分で二つ。俺が作業服を取った時はもうエリックの作業服は無かった」

「それなら………まさか道に迷ったとか?」

「更に有り得ん。ここには何回も出入りしているはずなのに………」

 その時である。
 後ろからエリックの「マーティオ~」と言う、泣き声にも似た暗い声が響いたのだ。
 
 マーティオとニックはそれとなく後ろを見てみると、作業服が泥まみれのエリックがいた。心なしか、今の彼は妙に小さく見える。

「エリック……何があった?」

「マーティオ……………済まん! マジ済まない!!」

 エリックは泥だらけの作業服のまま、その場に土下座する。しかし状況が飲み込めないマーティオは更に混乱していた。

「何があったのかと聞いているのだが…………言葉が分からないならお前の耳は必要なしと言うことで切り落とさせてもらうが?」

 マーティオは仕込んでおいているナイフを抜くとさり気無くエリックにその刃先をちらつかせた。

「言います。言うからそれを閉まってくれ!!」

「ふむ、残念」

「何がだ、このジェノサイド馬鹿!!」

 マーティオはナイフをしまいながら、「いいから話せ」と話を半ば強引に進めた。

「実は………バッグを盗まれちまった」

 エリックがまるでペ○ちゃんの様な変な笑みを浮かべると同時、マーティオのナイフがエリックの頬を浅く切り裂いた。

「泥棒が盗んだ物が更に盗まれるとは実に前代未聞だな。さてどう処刑して欲しい?」

 マーティオは明らかに怒りのオーラを体中から噴出している。これで背中に悪魔の羽でも生えていたらさぞかし似合う事だろう。

 それも当然である。何と言っても彼等の生活がかかっているのだ。

「魔女狩りのイメージで火炙りの刑にしてやろうか。それとも体を十七分割にしてやろうか。それともピラニアの餌にしてやろうか。それともミキサーにでも入れて豚の餌にしてやるべきか」

「目茶苦茶恐いから止めてくれ! つーかお前が言うとどれも冗談に聞こえんぞ!」

「当たり前だ。全部本気だからな」

 やっぱりこの男だけは怒らせてはならない、とエリックは思った。
 今の彼にはマーティオがどの悪魔や死神よりも恐ろしく見える事だろう。

「ま、まあそれは今は置いといて………その盗んだ奴の手紙があるんだ」

 エリックはポケットの中から封筒を取り出した。
 しかしマーティオはそれを乱暴に取り上げると溜息交じりに読み始める。

「何々………『怪盗シェル、及びイオに告げる。これよりこの怪盗ブラックローズと怪盗ホワイトローズの二人と盗みで勝負せよ』………お前はこんなヘンテコな名前の奴に金を奪われたのか?」

 マーティオは哀れむ目でエリックを見ている。

「馬鹿野郎! 後頭部を殴られたら誰だってアウトだ!」

「何だ、てっきり普通に盗まれたんだと思った」

 マーティオはそう言うと手紙の続きを読む。

「尚、貴方達のバッグは私が責任を持って預かっている。返して欲しければ私達と『世界最高の怪盗』の座を巡って勝負するがいい! ……場所と日時は今日の午後11時。かの有名なバンガードのカラクリ屋敷で待つ。……追伸、あんた等怪盗と名乗っているのなら夜にこっそりと忍び込んで金を盗みなさい! 何普通に真昼間から銀行強盗してるのよ!」

「そのなんたらローズとやらは女泥棒のようじゃな。手紙の口調を見る限りは」

 今まで横で聞いていたニックが言った。

「いや、分からんぞ。油断させておいて実は男とかいうオチかもしれん」

「オチって何だオチって」

「それはいいとして……問題は場所だな。あのバンガードのカラクリ屋敷とは」

 バンガードのカラクリ屋敷とは、50年前、大富豪のジョージ・バンガードが残した屋敷の事である。その屋敷には彼の楽しみとして様々なトラップが仕掛けられており、今では故人であるバンガードの代わりに屋敷の財宝を侵入者から守っているのだ。

 尚、カラクリ屋敷は世界各地に存在しており、様々な泥棒が挑んでいっては散っていった。生存者もいるが、その数は死亡者と比べて圧倒的に少ない。

「でもあそこって生存率が目茶苦茶低いんだよな。前に俺達もチャレンジしたけど」

「ああ、今にして思えば帰ってこれたのが不思議なくらいだ」

 数ヶ月前、エリックとマーティオはオーストラリアのカラクリ屋敷にチャレンジした。
 しかし結果は惨敗。下手したら上半身と下半身が分かれていたところだ。

「あれから半年もしない内にまた行くことになるとは………しかも今回は挑戦状のおまけ付だ」

「挑戦状はおまけなのか?」

 問われたマーティオは答えない。しかしその目はギラギラと光っていた。

「エリック、今こそリベンジの時だ! 今日こそはあのカラクリ屋敷のトラップを全て回避して屋敷を爆破してくれる!」

「いや、爆破するのかよ!?」
 
「何を言う。このマーティオ・S・ベルセリオン、一度敗北した敵には二度は負けん。今回は最終兵器という切り札付きであの屋敷を木っ端微塵にしてくれる!」

 エリックは思った。この男は本気だ、と。
 




 夜10時。
 
 あたりは闇に包まれ、公園の中にはネルソンとジョン、そして新たに彼等の仲間の一員と化している警察犬がいた。

 辺りが暗闇な分だけ彼等の姿は妙に影が薄く見える。

「なあ、ジョン。ふとどうでもいい事を考えたんだが……」

「何でしょうか? ネルソン警部」

 ブランコに座ったネルソンは一度犬に視線を送ってからジョンのほうに視線を移す。
 既に「ネルソンの秘密兵器その4」の名を欲しいがままにしている犬は不思議そうにネルソンを見つめながら地面に座り込んだ。

「そろそろ新兵器を開発する時期かな、と思ってな」

 その言葉を聞いた瞬間、ジョンと犬は派手な音を立てて地面に倒れこんだ。

「け、警部……まだ作る気なんですか?」

 ジョンの表情は半分呆れているが、もう半分は恐怖であった。
 彼はネルソンの秘密兵器が作られるたびに徹夜で様々な作業をしなければならないのだ。そのお陰か睡眠時間はたったの二時間だけと言う地獄の様な日々が続くのである。

「そうだな。そろそろ機動兵器辺りが欲しいところなんだが」

「絶対無理ですから勘弁してください」

 ジョンは土下座した。流石に機動兵器ときたら一日二時間睡眠の次元を飛び越えて一日二十四時間働くと言う悪夢の様な日常が続く可能性が高い。そんな日々が続いたらぶっ倒れるのも時間の問題である。

「むう、困ったな。そろそろこちらとしても新戦力が欲しいところなんだが……」

 ジョンは本気で考え込んでいるネルソンを見て絶句した。このまま行けば何時か「核ミサイルを越える超兵器を作れ」と言いそうで恐い。

「ふん。ならばあんたがサイボーグにでもなればどうだ? そうすれば自分で思うように戦えるぞ」

 すると、公園の入り口から男の声が聞こえてきた。

 ネルソンとジョンと犬はその男に視線を移す。

 そこにはごついマスクに全身を鎧のように覆う装甲が特徴的な男。サイボーグ刑事がいた。彼は刑務所の戦いでマーティオに敗北したのだが、その後大復活を遂げて帰ってきたのである。念の為言っておくが、紅の翼は背中には装備されていない。

「お前がクリューゲルの言っていた四天王か」

「その通り。…………久しいな、ネルソン」

 サイボーグ刑事のその言葉に二人は呆気に取られた。何故なら、

「あ、あれ? 二人は知り合いなんですか?」

「いや。こんなごついマスクの知り合いはいないぞ」

 珍しくネルソンがマトモに返答を返してくれたのでジョンはほっと安堵の息を吐いた。
 するとサイボーグ刑事は自身のマスクにゆっくりと手をかける。

「ほう、もう俺を忘れたんですか? ――――『ネルソン先輩』」

 彼は言葉を発したと同時、そのごついマスクを取り外した。

 その顔の上半分はまさに機械だった。右目は赤い機械の瞳が埋め込まれており、皮膚の代わりに鋼の皮膚が使われていた。

「その声、その面構え……もしやアレックスか!?」

「その通り。ようやく思い出したか」

 サイボーグ刑事は再びマスクを取り付けながら話を続ける。

「あんたがアメリカじゃなくてオーストラリアにいるって聞いたときには驚いたが、見てのとおり。俺もこうしてここに来たぜ。――――あんたがいない四天王になってな!」

「………何故お前が此処にいる? アレックス」

 ネルソンは真顔でサイボーグ刑事を見る。その表情には深い悲しみと信じられない、とでも言いたそうな感情が入り混じっていた。

「そもそもお前は死んだはずだぞ。アレックス」

「え!?」

 ネルソンの言葉を聞いたと単に、今度はジョンが疑問の声を上げる。それは正に死んだとはどういう事なんだろう、という純粋な疑問である。

「そう、確かに俺は四年前のあの日。死んだ。――――あんたに殺されたんだ!! お陰でこんな醜い姿になっちまったぜ」

 サイボーグ刑事はネルソンに力強く人差し指を向けながら叫んだ。
 その叫びには怒りがこもっている。

「え――――――?」

 ジョンはサイボーグ刑事の言ったことが理解できなかった。ネルソンは馬鹿だが、今まで彼が見てきた限りでは正義と根性で危機を乗り越える、部下思いのいい人なのだ。

 それが何故サイボーグ刑事を殺したという話になるのだろうか。

「忘れたとは言わせないぜ。――――四年前の、俺の人生全てを狂わせたあの日を!!」
 



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